「犬馬は難く、鬼魅は易し」
この言葉を最初に意識にとめたのは、画家の松田正平氏を特集した日曜美術館でした。
白洲正子さんも大切にされている言葉なのだと後から知りました。
先日クローズのワークショップで、参加者の方が
「簡単なものは描くのが難しい」と仰ったのです。
ご自身の型を彫りたいとの事で、本の中から動物のシルエットを写して
型にデザインしようとされていたのです。
苦戦の末、摺り染の時に刷毛の顔料を調整してマチエールをつくり、
独特の作品に仕上げておられました。
型染は、描いた絵をそのまま型にする事はとても難しく、
むしろそのまま型にしようとすると美しくないものになってしまいかねないので
作りたい形をいかに整理してシンプルなものにして、形と色で美しいものを作れるか
という所が勝負どころであり、また、その人のオリジナルが出てくるところなのです。
シンプルな線と形に整えるためには
元の「複雑」で「情報の多い」状態から、
不要な形や線などの情報をそぎ落としていって、
自分の感覚が「これだ」と感じられるところまで
何度も何度もスケッチを繰り返して形を決めてゆきます。
出来上がったものは、とてもシンプルです。
シンプルな中に、そぎ落とした情報のエッセンスが含まれていて
なおかつ美しくなくてはなりません。
そこへ到達するのはそう簡単な事ではありません。
シンプルで一見簡単そうに見えるもの、というのは、
複雑で情報が詰まっているように見えるものに比べて、
どこか軽んじられる風潮があると感じます。
ですが、本当は、
シンプルなもの、身近なものこそは、難しく、奥が深く、
そこへ自分から踏み込んで真剣に対してみたら、
一見複雑なものよりもずっと難しく、
こちらの覚悟を問われるものだという気がします。
これは絵画や工芸の話だけにとどまらず、
生きていること全てに当てはまると思います。