七夜物語

新聞連載時に毎朝楽しみにしていた物語。
酒井駒子氏の絵が物語世界をさらに豊かにしてくれる。
上下巻をもったいないと思いながらも一気に読んでしまった。
フィクションにどっぷりとはまり寝食を忘れて読みふけるのは久しぶり。
かつては物語なしでは生きられないと思いこういう自分が変わることはないと感じていたのに、やはり「夜の世界」へ行く資格をいつの間にか失っていたのだと気づく。

二冊の本にまとめるためにはしょられた部分もあり毎日見ていた酒井駒子氏の挿絵も全て載ってはいないけれど(そりゃ無理ですよね・・・)。
記憶に残っているはしょられた部分で残念だったのはグリクレルが「あたしは大したねずみなんだよ」と胸を張る場面。とても好きだったのだけれど物語の中では不要な部分だったのか。
グリクレルの台所での「さくらんぼのクラフティーの夜」は圧巻。満たされる。(それにしてもクラフティーってどんなお菓子だろう。)
さすが食べ物の場面を描くのがうまい川上弘美さん。他の食べ物も(「寒そうなこどもたち」がくれた粗末な食べ物すらも)とても美味しそうな幸福感に満ちている。

フィクションやファンタジーは「つくりごと」でありながら我々の生きるこの世界の真実をノンフィクションよりも生き生きと深く描き出す。
ファンタジーなどこの世界の成り立ちに必要ないという考え方自体がファンタジーだとは故河合隼雄氏の言葉。
私たちは大人になってしまって何もかも忘れているようだけれどもほんとうは子どものときにそれぞれの「夜の世界」を旅していてそこで得たものを糧に大人の今を生きている。そして今ももしかすると気づかないうちに「夜の世界」を訪れているのかもしれない。さよの両親のように。
自分の中にこういう深い世界が存在していて常に自分を支えてくれていると感じられることで、この現実世界の毎日を生き抜く事が出来る。
物語の持つ偉大な力。